飼育している魚が病気になってしまったとき必要となる魚病薬。
この記事ではほぼすべての市販の魚病薬を掲載しています。薬の選択で悩んだとき参考になれば幸いです。
はじめに
掲載した魚病薬は、農林水産省のHPにある「水産用医薬品一覧表(令和4年11月30日時点)」や「観賞魚飼育・管理士ハンドブックⅠ」(日本観賞魚振興事業協同組合.2017)に記載のあるものをベースに、その他各種書籍に近年登場したものを加えました。
ここ数年魚病薬の流通は不安定になっており、今回紹介する中にも製造者や販売者が変更された薬、さらには生産が終了ないし休止中の薬が多く存在するようです。
小規模のアクアリウムショップを中心に古い在庫を扱っているお店もあるため、現在販売されていないものでも最近まで流通していた薬は極力取り上げるように努めました。
メーカーから公式に販売終了のリリースが出ることは少なく、正確な状況は分からないことが多いのですが、わかる限りの流通状況は薬ごとに付記しました。
根拠ある情報をまとめた魚病薬名鑑があったらいいのに、という思いからこの記事を書き始めました。
そのため本記事の内容はメーカーや各種文献の記述、各魚病薬が含有する成分の効能に基づいたものとなっています。ただ一部、一般に言われる傾向や個人の見解を含んだ部分もあるので注意してください。
本記事を参考されるにあたって
人間の薬でも副作用が出るように、魚病薬の使用も一定のリスクを伴います。
この記事を参考に薬を選択・使用される場合、以下の注意点について確認いただいたうえで自己責任の下処置いただくようお願いします。
①病気の診断と薬の決定
魚病薬は対処できる病気が製品によって違うため、まずは正確な病気の診断が重要です。
しかし、水産試験場のような病理的診断ができない個人アクアリストが、正確な病気の診断を下すというのはかなり難しいことです。
エラの内部のように目視で確認できない部位もあれば、体表の充血のようにいくつもの病気で見られる症状もあります。
診断は経験や知識の量で正確性が大きく変わります。少ないながら出回っている書籍もあるので、それらを参考にするとよいかもしれません。この記事の最後にも、普段私が参考にしている書籍をまとめています。
病名がわかったら、その治療に適した製品を探します。
どの病気か確信を持てないときの対処としては、幅広い病原体に効果がある製品を使ってみるという手があります。
アグテンパウダーやグリーンFといった製品は、白点病からミズカビ病、細菌感染症まで広く効果があるとされます。詳しくはこのあとの「配合薬」の項をご覧ください。
複数の魚病を併発した場合は、同様に配合薬を使うか、一つを直した後に次の病気に対処することが一般的です。複数の魚病薬を同時使用する手法もあるようですが、基本的には用法外であることに注意 (③で詳述)
②一般的な注意点
濾材に活性炭などが含まれている場合、薬が吸着されて効果が無くなってしまいます。同様にソイルを底床に用いている場合も効果が見込めなくなるので注意しましょう。
種類によっては光によって分解されて薬効期間が短くなってしまうものもあります。遮光の必要性は有効成分によって変わるので、各成分や製品の記述を参考にしてください。
また、製造時期が古かったり保管方法が適切でなかった魚病薬は、経年や紫外線により成分が分解され効力が低下することがあります。
古い在庫を扱っているショップもあるので、あまりに古そうだったり日光が当たる場所で保管された商品は避けた方がよいかもしれません。
(多くの薬は遮光出来る容器か紙箱に入っているので大抵心配はないかもしれませんが。)
③用法外の使用
市販の魚病薬は、基本的に海水魚への使用はできません。
今回紹介する魚病薬は「ヒコサンZ」を除き、淡水魚への使用を目的としたものです。
海水魚の薬浴治療は硫酸銅や海水魚用の魚病薬を用いるのが一般的ですが、淡水魚用の魚病薬を用いる方法もあるようです。今後機会があれば記事にしたいと思います。
また、複数種の薬を混ぜて薬浴することも基本的にはNG。
ほぼすべての薬には併用不可の記述が説明書内にあり、複数の薬を混ぜて対処することはできません。病気が併発し一つの成分で対処できない場合には、この後紹介する「配合薬」を用いるか、一つを直した後に次の病気に対処することが一般的です。
なお魚病薬メーカー最大手の日本動物薬品が運営するYoutubeチャンネル、「観賞魚の診療所」では複数の製品を混ぜた用法内なのか用法外なのか分からない動画も掲載されています。
同社はカスタマーサービスが非常に充実しているので、複数の製品を使う必要が出た際にはコンタクトを取ってみるのが良いかもしれません。
④副作用
魚病薬は副作用が出るケースもあり、薬剤に極端に弱いとされる古代魚・ナマズ類・ピラニア類への使用は避けるよう殆どの製品に注意書きがなされています。
特に「オキソリン酸」という抗菌剤は強い副作用が出るとの記載がいくつかの文献で見られます。この抗菌剤でナマズの治療に成功した例もあるにはあるのですが、基本的に各種薬剤の使用は非常に慎重に判断すべきと思われます。
弱った魚や薬剤に弱い魚は投入直後にショック症状を起こすことがあります。
薬の投入直後に狂ったように泳ぐ、痙攣する、横転・転覆するといった症状が出た場合、薬剤によるショックの可能性が高いです。
この場合、薬が入っていない元の飼育水に早急に戻すことで回復することがあるので、薬浴開始時には元の飼育水も用意しておくといいでしょう。
また多くの薬剤はエビや水草といった魚類以外の生き物に害を与えます。メイン水槽に投薬する際には魚類以外の生き物は取り除くようにしましょう。
⑤投入量などの再確認
記事内では薬の有効成分や効果を示す病種、投入量などの情報を掲載しています。
いずれの情報も複数回チェックを行い誤記がないよう努めていますが、薬の購入・使用前に改めてご自身で確認いただくようお願いいたします。
特に薬の投入量は過少だと効果を発揮しない、過多だと投入後に魚がショック死する場合があります。水槽の容量を確認したのち、薬の表記に従って投入量を計算してください。
また、製品によって使用できる期間や薬効の持続期間が異なります。既定の日数が経過したら製品の記載に従って薬浴を止めるないし再度投入してください。
⑥効果が見られないとき
薬浴をしても効果が見られない、というケースも案外あるものです。
理由は様々で、思っていた病気と違ったり、既に手遅れだったり、進行が速すぎたり…。
5日ほど薬浴して効果が見られない場合は薬の変更も検討してください。
特に厄介なのがエロモナスやカラムナリスといった細菌感染症で、同じ病気のはずなのに進行速度が目に見えて違ったり、以前効いた薬が効かなかったりというケースがちょくちょくあります。
文献を当たると、同じ病原体であっても株によって特性だったり薬への感受性が異なることはよくあるそうです。
耐性菌が発生することも多いため、薬浴で効果が認められない場合すぐ別の薬に変えられるよう、異なる有効成分を持った複数の薬を常備しておくのがベストといえるでしょう。
魚病薬早見表
本記事で取り上げた計30の魚病薬の早見表。
細かい部分が読めないと思うので元のPDFを貼っておきます。
現在流通しているものに絞った早見表。
(ショップによっては古い在庫が残っていることがあるので、このリストにない製品が売られている場合もあります)
魚病薬の成分
白点病や水カビ病の治療に効果的な色素剤。体表部の細菌にも効果がありカラムナリス病の治療も可能ですが、抗菌剤を含んだ魚病薬の方が治療には適しています。
光との反応で活性酸素を発生させることで薬効を発揮しますが、強い光の下では急速に分解されて効果を失ってしまいます。したがって強い光も完全な遮光も避ける必要があります。水中での安定性が低いため強光下でなくても持続期間は短めで、飼育水の着色が消えたら再度添加することが一般的です。
薬浴中は溶存酸素量が減少しやすいため、薬浴中はエアレーションを欠かさず行いましょう。色素剤の特性上、水槽内のものは多かれ少なかれ着色されます。エアレーションを強めたときの飛沫が水槽外まで及ぶと、緑青色のシミとなる可能性があるため注意。
毒性はやや強く発がん性も指摘されているので、用量を守って使用しましょう。
水草への影響が少ないのは利点。
メチレンブルー
多くの特性はマラカイトグリーンと似ていますが、比較して毒性が低いとされています。ただし水草には有害なので注意。
二酸化塩素
白点病の治療に効果的。
色素剤の2種に比べると水中での安定性が高く、水草への悪影響も最小限。色素剤と異なり水カビ病には効果がないとされています。pH5.5以下では強毒化するため注意。
ニトロフラゾン・ニフルスチレン酸ナトリウム
ともにフラン系の抗菌剤で、エロモナスやカラムナリスといった細菌感染症に効果的。
細菌の脱水素酵素の働きや、核酸・タンパク質の合成を阻害することで効果を発揮します。耐性菌ができづらく体内に浸透しやすい一方、魚への負担も大きいので注意。
光で分解されるため、フラン剤が含まれた魚病薬を用いる際は遮光が必要。水草にも害がある点も注意。
スルファジメトキシンナトリウム
サルファ系の抗菌剤で、エロモナスやカラムナリスといった細菌感染症に効果的。
細菌内の葉酸合成を阻害することで効果を発揮します。耐性菌ができやすいことから近年は魚病薬への利用は下火。
光で分解されるため薬浴時は遮光が必要。
オキソリン酸
キノロン系の抗菌剤で、エロモナスやカラムナリスといった細菌感染症に効果的。
DNAジャイレースという酵素の働きを抑えてDNAの合成を阻害することで効果を発揮します。浸透力が高くないため穴あき病など体表で発生する細菌感染症には強いものの、運動性エロモナスのように体内でも菌が増殖する病気にはやや不向き。耐性菌ができやすいことも注意。
アクリノール・塩酸クロルヘキシジン
ともに消毒・静菌効果があり、外傷部からの二次感染を防ぐ効果があります。
病気の治療というよりは、治療中の二次感染を防ぐ補助的な役割として含有されることがほとんど。
トリクロルホン
有機リン系の殺虫剤で、ウオジラミ(チョウ)症やイカリムシ症、ダクチロギルス症、ギロダクチルス症といった寄生虫症に効果があります。
なんとなく察しが付く通り使用上の制約が多く、「メダカ・金魚・川魚・錦鯉以外の生き物」への使用は副作用の影響が大きいため不可。金魚や鯉でも「28℃以上またはpH8.0以上」の場合は使用できません。
配合薬(幅広い病原体をターゲットとした薬)
魚病薬に含まれる個々の有効成分はそれぞれ特定の病原体に効果を示します。
主なものを挙げると
白点病やミズカビ病を主なターゲットにした「色素剤」
カラムナリス病やエロモナス病といった細菌感染症がターゲットの「抗菌剤」
といった具合です。
ここで紹介する魚病薬はこれらの有効成分を複数含んでおり、幅広い魚病に対処可能です。病名を特定できないときや、病気を併発して1つの薬剤では対処しきれないときに便利といえるでしょう。
以下では6製品を紹介していますが、記事公開時点で入手可能なのは「アグテンパウダー」と「グリーンF」の2種類。
ともに色素剤と抗菌剤を組み合わせた製品ですが、有効成分は全く違うので注意が必要。どちらも使ったことはありませんが、有効成分から判断するなら私ならグリーンFを選ぶかな…。
注意点としては、いずれの製品も抗菌剤の成分が薄めであること。病気が細菌感染症のみだと明らかな場合は、細菌感染症に特化した純粋な抗菌薬の方が向いていると言えそうです。
アグテンパウダー
販売:日本動物薬品
主要成分
マラカイトグリーン (色素剤)
スルファジメトキシンナトリウム (サルファ系抗菌剤)
アクリノール水和剤 (消毒薬)
遮光:直射日光は避ける
水草:〇
色素剤のマラカイトグリーンとサルファ系の抗菌剤を混合した魚病薬。
色素剤による白点病や水カビ病への効果、抗菌剤による細菌感染症への効果が期待できます。
様々な資料を追っていてもあまり使用例を見かけない薬ですが、対処できる病気の範囲はかなり広め。1gずつに小分けされたタイプもあるので、小型水槽で薬浴を行う際でも比較的扱いやすいかもしれません。水草水槽への使用も可能らしい。
現在やや品薄のようですが、販売自体は継続している模様。
注意点は挙げるなら、やや魚毒性が強いマラカイトグリーンと耐性菌ができやすいサルファ系抗菌剤の組み合わせである点。どちらの成分も効果は見込めますが、このあと紹介するグリーンFは魚毒性の弱いメチレンブルーと耐性菌ができづらいフラン系抗菌剤の組み合わせを採用しています。
似た名前の「アグテン」は抗菌剤が含まれない液体タイプの色素剤で、白点病やミズカビ病が主なターゲットとなっているので注意。
フレッシュリーフ
販売:GEX
主要成分
マラカイトグリーン (色素剤)
スルファジメトキシンナトリウム (サルファ系抗菌剤)
アクリノール水和剤 (消毒薬)
遮光:直射日光は避ける
水草:〇
製造会社、成分、含有量、用法などいずれも「アグテンパウダー」と共通しており、基本的に同じ薬と考えて問題ないと思われます。
ペット用品EC大手「チャーム」においては休売中の表記となっており、現在購入は困難な模様。GEXの公式HPからも削除されているようです。
「動物用医薬品等データベース」ではまだヒットしますが…。
トロピカルゴールド
販売:リケンベッツファーマ (令和1年まで津路薬品工業)
主要成分
メチレンブルー (色素剤)
アクリノール (消毒薬)
トリクロルホン (駆虫薬)
遮光:直射日光は避ける
水草:×
色素剤と有機リン剤を組み合わせた珍しい魚病薬。
白点病や水カビ病に加え、ウオジラミ(チョウ)やイカリムシなど寄生虫の駆除にも効果を発揮します。
寄生虫駆除に有効なトリクロルホンの特性上、使用は金魚と錦鯉に限定され熱帯魚への使用は不可。高水温や高pH時は毒性が増すため水温は28℃、pHは8.0をそれぞれ超えないよう注意が必要。エビといった無脊椎動物への毒性も強いので、これらの生き物が入った水槽には使用できません。
令和元年に津路薬品工業からリケンベッツファーマへと登記が変更されていますが同社のHPに記載はなし。ECサイト各所を見ても在庫は見当たらず、現在販売されていないと思われます。
グリーンF
販売:日本動物薬品
主要成分
メチレンブルー (色素剤)
ニトロフラゾン (フラン系抗菌剤)
遮光:直射日光は避ける
水草:×
色素剤のメチレンブルーとフラン系の抗菌剤を混合したロングセラー。
色素剤による白点病や水カビ病への効果、抗菌剤による細菌感染症への効果が期待できます。
アグテンパウダーやサンエースではサルファ系の抗菌剤が配合されているのに対し、グリーンFでは耐性菌が現れづらいとされるフラン系の抗菌剤が配合されているのが特徴。
一方でフラン剤の特性上、魚や水草・濾過バクテリアへの負担が大きいこと、光で分解されやすい点には留意が必要。同じく有効成分のメチレンブルーは作用原理上一定の光が必要なので、完全な遮光と強い光をどちらも避ける必要があります。
有効成分の特性や、L当たりの投入量がほどよく多くて計量がしやすい点を考えると、広範囲の魚病を叩く薬としてはこれが一番使いやすそう。(使用経験なし)
サンエース
販売:リケンベッツファーマ (令和2年まで津路薬品工業)
主要成分
メチレンブルー (色素剤)
スルファジメトキシンナトリウム (抗菌剤)
アクリノール (消毒剤)
遮光:直射日光は避ける
水草:×
色素剤のメチレンブルーとサルファ系の抗菌剤、消毒剤のアクリノールを混合したロングセラー。色素剤による白点病や水カビ病への効果、抗菌剤による細菌感染症への効果が期待できます。
液体タイプなのが特徴で、最長10日間の薬浴期間中は連日投入する必要があります。
具体的には薬浴1日目から3日目まで毎日10Lあたり3、3、4mLをそれぞれ添加。4日目には水をリセットし、1日目の容量で再度添加しリスタート。
1日2日で薬効がなくなるとも思えないので、徐々に濃度を上げていくスタイルの模様。
注意点としては、真偽は不明ながら細菌感染症に対する効果が弱いという声がネット上でちらほら見られること。考え得る理由は2つ。
1つはサルファ剤は耐性菌ができやすい特性があること。サンエースで薬浴期間が最長10日間とされているのもそのためで、近年ではサルファ剤を使った魚病薬は減少傾向にあります。
2つ目はそのサルファ剤(スルファジメトキシンナトリウム)の濃度が薄めであること。最も濃度が高くなる3日目でさえ2ppmと、細菌感染症に特化したグリーンFゴールド顆粒の1/5以下の濃度になっています。
症状の原因が細菌感染症とわかっている場合では、フラン剤やオキソリン酸を成分とする薬を用いた方がよいかもしれません。
もっとも近年は流通しているのかかなり怪しい。計3社のHPに記載が確認できましたが、一般に流通はしていないようで店頭でもネット上でも見かけた記憶がありません。
魚病薬サンエース
販売:キョーリン
主要成分
メチレンブルー (色素剤)
スルファジメトキシンナトリウム (抗菌剤)
アクリノール (消毒剤)
遮光:直射日光は避ける
水草:×
商品名や製造元、成分からわかる通り上で紹介したサンエースと中身は同一。観賞魚のエサで有名なキョーリンから昨年(2023年)発売されたばかりの商品です。
何度か店頭で見かけたことはあるものの、流通していたのはほんの一瞬のようでおそらく既に廃番。23年9月ごろには店頭からも通販サイトから姿を消しており、記事公開時点の24年1月ではキョーリンのHPからも削除されています。一度使ってみたかっただけに残念(かなり探しました)。
色素剤・二酸化塩素製剤
色素剤と総称されるマラカイトグリーンやメチレンブルーは、主に白点病や水カビ病に効力を発揮します。
腐れ症状が特徴的なカラムナリス病にも有効であるとされていますが、効果が体表部の細菌に限定されてしまうため、カラムナリス病の治療には色素剤より抗菌剤の使用が推奨されている印象。この記事では色素剤のカラムナリスに対する効果は「△」と表記しています。
色素剤は作用原理上溶存酸素量が減少しやすいため、薬浴中はエアレーションを欠かさず行いましょう。色素剤の特性上、水槽内のものは多かれ少なかれ着色されます。エアレーションを強めたときの飛沫が水槽外まで及ぶと、緑青色のシミとなる可能性があるため注意。
また、作用原理上一定の光がないと薬効が発揮できない一方、強い光では急速に分解されて効果を失うため、完全な遮光と強い光をどちらも避ける必要があります。
対してグリーンFクリアーの有効成分である二酸化塩素は、色素剤と異なり無色で安定的なのが特徴で白点病にのみ効果があります。
殆どの製品が使いやすい液体タイプで、目立った成分や濃度の違いはありません。各成分が魚や水草に与える影響から製品を絞り込めば、どれを選んでも大きな違いはないはず。
アグテン
販売:日本動物薬品
主要成分
マラカイトグリーン (色素剤)
遮光:直射日光は避ける
水草:〇
有効成分はマラカイトグリーンのみと非常にシンプルで、白点病や水カビがメインターゲットとした製品。
魚毒性と発がん性には注意が必要ですが、薬効は高く水草にも無害と利点も多く存在します。
エビには無害であるとする記述が各所に見られますが、自分の経験から言うとかなり注意が必要。以前小さめのミナミヌマエビが多数入った水槽に規定を下回る濃度のアグテンを加えたところ、ものの数分でほとんどのエビが死亡しました。濃度やエビの大きさ、種類などによって毒性は異なると思われるため、一概に安全と考えるのは危険といえそうです。
ヒコサンZ
販売:キンコウ物産
主要成分
マラカイトグリーン (色素剤)
遮光:直射日光は避ける
水草:〇
こちらも有効成分はマラカイトグリーンのみのシンプルな魚病薬。
特徴や注意点は有効成分が同一のアグテンを参考にしてください。今回紹介している30製品で唯一「淡水・海水両用」を謳う製品。
スーサンエース
販売:日本醗酵飼料
主要成分
マラカイトグリーン (色素剤)
遮光:直射日光は避ける
水草:〇
こちらも有効成分はマラカイトグリーンのみのシンプルな魚病薬。
近年流通はしていないようですが、農林水産省のHPにある「水産用医薬品一覧表」には現在もリストアップされています。
また、月刊アクアライフに連載されている「観賞魚の病気対策」や季刊マリンアクアリストの連載「海水魚の病気を詳しく」に頻繁に登場するためこちらで紹介しました。
有効成分や溶解後の濃度はアグテンやヒコサンZと同等なので、特徴や注意点はアグテンを参考にしてください。
ジプラエース
販売:日本醗酵飼料
主要成分
マラカイトグリーン (色素剤)
アクリノール (消毒剤)
遮光:直射日光は避ける
水草:〇
スーサンエースと同一メーカーから販売されていた魚病薬。
色素剤のマラカイトグリーンに消毒剤のアクリノールを加えたもので、白点虫が離脱した患部などへの細菌の二次感染を防ぐ効果も期待されます。
マラカイトグリーンの濃度はおそらくアグテンやスーサンエースと同等なので、このほかの特徴や注意点はアグテンを参考にしてください。
グリーンFリキッド
販売:日本動物薬品・GEX
主要成分
メチレンブルー (色素剤)
アクリノール (消毒剤)
遮光:直射日光は避ける
水草:×
色素剤のメチレンブルーと消毒剤のアクリノールを混合した製品。
色素剤による白点病や水カビ病への効果、消毒剤による傷口への細菌感染予防効果が期待できる。
規定量を溶かした際の各成分の濃度はいずれもやや薄め。投入量も比較的多いため小型水槽にも使いやすく、扱いやすい白点病・水カビ病の治療薬といった感じ。
似た製品名の商品が多数展開されているので注意が必要。特に「グリーンF」は液体か粉末か以外にも有効成分に大きな違いがあるため注意。
ニューグリーンF
販売:日本動物薬品・GEX
主要成分
メチレンブルー (色素剤)
塩酸クロルヘキシジン(消毒剤)
アクリノール (消毒剤)
遮光:直射日光は避ける
水草:×
色素剤のメチレンブルーと消毒剤の塩酸クロルヘキシジン・アクリノールを混合した製品。
色素剤による白点病や水カビ病への効果、消毒剤による傷口への細菌感染予防効果が期待できます。
メチレンブルーを含んだ粉末タイプの魚病薬としては元祖「グリーンF」があり、こちらはその後継製品。
しかし、フラン系の抗菌剤を含んだ先代と比べると対応できる病気の範囲が狭まっており、より使いやすい液体タイプのグリーンFリキッドと成分や効用はほぼ同等。積極的に選択する理由は少ないかもしれません。
日本動物薬品からは小容量タイプが、GEXからは大容量タイプが販売されていましたが、記事公開時点では流通していない模様。(初代グリーンFはまだ流通しています)
メチレンブルー液
販売:日本動物薬品
主要成分
メチレンブルー (色素剤)
遮光:直射日光は避ける
水草:×
有効成分はメチレンブルーのみと非常にシンプルで、白点病や水カビ病をメインターゲットとした製品。
非常に大容量の製品であるため、業務用ないし池などでの使用を目的とした製品と思われます。池での使用の際はメチレンブルーの特性上、直射日光が当たると急速に分解されてしまう点に注意。
観賞魚用メチレンブルー液
販売:キョーリン
主要成分
メチレンブルー (色素剤)
遮光:直射日光は避ける
水草:×
有効成分はメチレンブルーのみと非常にシンプルで、白点病や水カビ病をメインターゲットとした製品。
2022年末から販売が開始された新しい製品ですが、中身はおそらく一つ前で紹介した「メチレンブルー液」と同一。
「短時間反復薬浴」という通常比10倍以上の高濃度薬浴法があるようですが、薬液の投入量以外の情報が示されていません。30分程度の高濃度浴を複数回繰り返す用法と思われますが、薬浴時間もインターバル時間も記載は無し。
メチレンブルー水溶液
販売:日本動物薬品・GEX
主要成分
メチレンブルー (色素剤)
遮光:直射日光は避ける
水草:×
こちらも有効成分はメチレンブルーのみで、白点病や水カビ病をメインターゲットとした製品。
投入量には幅がありますが、規定量投入した際のメチレンブルーの濃度は全体的に高め。そのほかの特徴や注意点は有効成分が同一のメチレンブルー液を参考にしてください。
グリーンFクリアー
販売:日本動物薬品
主要成分
水成二酸化塩素 (二酸化塩素製剤)
遮光:不明(おそらく必要なし)
水草:〇
二酸化塩素を主成分とした白点病の治療に特化した魚病薬。
白点病の治療ではマラカイトグリーンやメチレンブルーといった色素剤が通常用いられますが、二酸化塩素は以下の点で優位性があります。
①飼育水を着色しない
色素剤は飼育水のみならず、水槽のシリコンや砂利、濾材を含め水槽内の多くのものを染色してしまいます。グリーンFクリアーは飼育水を着色しないため染色被害を防止することができます。
②安定性が高い
色素剤は光と反応することで薬効を発揮しますが、強い光の下では急速に分解されて薬効が短時間で失われてしまいます。この点、二酸化塩素は安定性が高くより長期間の効果が期待できます。
③水草への影響がない(例外あり)
マラカイトグリーンも水草への影響はないとされますが、日本動物薬品のHPには「水草に対して安全な白点病治療薬は、グリーンFクリアーです。」と明記されています。
また、病気が発生した水槽の水草の消毒にも利用可能。その際は1Lあたり20mLのグリーンFクリアーを添加した水で3-5分つけ置いた後、水でよく洗い流すとのこと。
なお説明書には、「植えたばかりの水草及び赤系の水草には使用しないこと」との付記があります。この注意書きはマラカイトグリーンを用いたアグテンにもあるため、該当する条件の水草が植わった水槽の魚を治療する際は、魚を別水槽に取り上げたうえ薬浴することが望ましいと思われます。
気をつけたいのは、pH5.5以下と酸性に傾いた水に添加すると魚毒性が高まるとされること。また、色素剤と違って水カビ病に対する効果はないとされています。
抗菌剤
カラムナリス病や、穴あき病、運動性エロモナス病といった細菌感染症に対処する薬剤が抗菌剤です。魚病薬に含まれる抗菌剤はフラン系・サルファ系・キノロン系の3つに大別され、それぞれ特性が異なります。(詳しくは記事冒頭を参照ください)
細菌類は耐性菌ができたり、株によって薬剤の感受性が異なったりする場合があるため、タイプの異なる魚病薬を複数備えておくのがよいと思います。
特に松かさ症状で有名な運動性エロモナスは難治性で、薬に浸した餌を与えるといった用法外の手法や、効果も副作用も強いとされるエルバージュでの薬浴を行わないと治癒が難しいケースもあるようです。最初に用いた薬で効果が見られないときは、そのほかの治療法も検討するとよいでしょう。
なお近年は運動性エロモナスの治療に、エプソムソルト(硫酸マグネシウム)浴を用いる例が増えてきています。魚病薬との併用の有無や作用原理、毒性などまだ情報が少なく、私はまだ試したことがありません。
先に述べたように効く効かないがケースバイケースになるため、理想は複数種の製品を揃えておくこと。現在流通する「グリーンFゴールド顆粒」と「グリーンFゴールドリキッド」(=観パラD)、「エルバージュ」の3種はそれぞれ成分が異なります。ちなみに小型水槽での計量のしやすさでは「グリーンFゴールドリキッド」が抜けて便利。
グリーンFゴールド顆粒
販売:日本動物薬品・GEX
主要成分
ニトロフラゾン (フラン系抗菌剤)
スルファジメトキシンナトリウム (サルファ系抗菌剤)
遮光:必要
水草:×
フラン系とサルファ系、2種の抗菌剤を組み合わせた魚病薬で各種細菌感染症への効果が期待できます。
最も一般的な抗菌薬の一つですが、小型水槽への計量が少し難しい点と遮光が必要な点には注意。
またネット上を中心に、重度な白点病の治療にも有効との声がちょくちょく見られます。真偽は不明ですが、海水魚の白点病治療に本剤を用いているショップもあるようで実際には効果があるのかもしれません。
白点病の原因は白点虫と呼ばれる繊毛虫の一種で細菌ではありません。抗菌剤が白点虫に作用するとの情報はみたことがないですし、本剤が白点病に効くと主張している人たちの話を読んでも作用メカニズムには言及はなし。
白点虫は皮膚の内部に潜り込んで成長し、最終的には表皮を突き破って魚体から離れます。多数の白点虫が寄生した重度な白点病では、白点虫が離脱した際の穴が多数開くことになり、体液の流出や細菌・水カビの二次感染といったリスクにさらされます。一般に白点病の直接的な死因は、この穴からの二次感染やエラに白点虫が寄生することによる呼吸等の阻害とされています。高濃度の抗菌剤が水中を泳ぐ時期の白点虫に作用するのか、抗菌剤による二次感染の予防が大きいのか…。
魚病ではありませんが、べったりとした緑色のコケ・藍藻の除去に使えることでも有名。
日本動物薬品とGEXから発売されており、入手は容易。
ハイートロピカル
販売:津路薬品工業
主要成分
スルファジメトキシンナトリウム (サルファ系抗菌剤)
アクリノール (消毒剤)
遮光:必要
水草:×
サルファ系抗菌剤と消毒剤を組み合わせた製品で、各種細菌感染症への効果が期待できます。
しかし、サルファ系抗菌剤は耐性菌ができやすく近年は魚病薬に用いられることが減りつつあり、本製品もすでに販売が終了しているものと思われます。
グリーンFゴールドリキッド
販売:日本動物薬品
主要成分
オキソリン酸 (キノロン系抗菌剤)
遮光:なし (とされるが…)
水草:〇
キノロン系の抗菌剤が配合された製品で、細菌感染症への効果が期待できます。
有効成分であるオキソリン酸は細菌感染症、なかでも特にカラムナリス病に有効であるとされています。プラスの特徴としては水草、濾過バクテリアへの影響が少ないとされるところ。また巷では、魚体への負担も少ないと言われています。
半面、長期使用で耐性菌が生まれるリスクがあったり、運動性エロモナスへの効果が限定的との声も見られます。運動性エロモナスは松かさや赤斑といった症状のほかに腹腔内で細菌が増殖することが多いようで、体内への浸透が弱いオキソリン酸の薬浴では効果が見られないケースもあるようです。(浸透が弱いという情報は手元の資料には記述がなく、本製品や成分が同じ観パラDの薬浴で完治したとの報告も少なからずあります。)
なかには、本製品に浸した薬餌で劇的な効果が見られたという報告も見られますが、非正規な用法であるため注意が必要。
また有効成分の特性上、水温や水質で効果が変化する場合があります。もっとも魚体に吸収されやすいのは水温25-28℃で、20℃以下や30℃以上では吸収が緩慢になります。pHが5を下回る古くて酸性に傾いた水や、硬度が高い水とも相性が良くないとのこと。
遮光の必要性はないとされ外箱なしで販売されていますが、光で薬効が薄れるとの報告があるので念の為に遮光した方が良いかも。
我が家では薬に弱いとされるドジョウ類を多数飼育していたため、魚体への負担が少ないと言われる本製品を多数使用してきました。以下やや長くなりますが、経験談を少し。
ドジョウの薬剤への弱さを考え、最初は規定量の半分の濃度で薬浴を開始。その後様子を見ながら徐々に既定の濃度まで上げていきます。具体的に記録してきたわけではありませんが、カラムナリスは7-8割完治。
1割程度の割合で薬浴時にショック症状が見られました。具体的には規定の半分~規定量の本製品を投入した水にドジョウを移した直後、痙攣・横転・狂乱といった症状が現れることがあります。すぐに元の飼育水に戻すことで回復する場合もありますが、そのまま死亡するケースもあり。
こうした症状がpHショック時のものに似ているとの意見を先日頂きました。実際、本製品の原液はpH11程度と強アルカリ性なので、pHショックが原因となっていた可能性はあります。しかし、規定量投入した程度では有意なpH変動が見られないことが確認できているので実際は不明。本製品が特別毒性が強いということはないと思いますが、薬剤に弱い魚では(やや弱めとされる本製品ですら)このような副作用が出る場合があることは留意が必要です。
観パラD
販売:日本動物薬品
主要成分
オキソリン酸 (キノロン系抗菌剤)
遮光:なし (とされるが…)
水草:〇
有効成分や規定量投入した際の濃度は1つ前のグリーンFゴールドリキッドと同じ。
違いは原液の濃度で、観パラDのほうが10倍高濃度となっています。代わりに投入量も1/10になっているので最終的な濃度は同じになります。
濃度の違いほど薬価に差がないため、小型水槽や投入量の微調整が必要な場合ではグリーンFゴールドリキッド、大きめの水槽に使う場合には観パラDがおすすめ。
パラキソリンF
販売:日本動物薬品
主要成分
オキソリン酸 (キノロン系抗菌剤)
遮光:なし
水草:〇
薬が配合された餌、いわゆる薬餌として販売されていた観賞魚用としては極めて珍しい製品。有効成分はグリーンFゴールドリキッドや観パラDと同じオキソリン酸で、細菌感染症に対する効果が期待できます。
食欲がある場合では餌を消化器から吸収させることで効果的な治療が見込めるかもしれません。
直近の数年で終売となってしまったようで現在では入手が困難。
代替としてグリーンFゴールドリキッドや観パラDを使って薬餌を作る方法もあるようですが、紹介するサイトによって作り方が異なる上、正規の用法ではないことに注意が必要。
エルバージュエース
販売:日本動物薬品
主要成分
ニフルスチレン酸ナトリウム (フラン系抗菌剤)
遮光:必要
水草:×
フラン系の抗菌剤が配合された製品で、細菌感染症への効果が期待できます。
フラン系の抗菌剤を用いた製品はほかにもありますが、その中でもエルバージュはもっとも強力な細菌感染症用の魚病薬と言われることが多いです。
半面、薬浴時の魚体への負担も大きいようで、メーカーの用法では薬浴の時間は4時間又は24時間と定められてます。多くの魚病薬では薬浴は1週間程度行うのが普通ですが、エルバージュでは説明書に以下のような記載もあり相応に負担が大きい薬であるのは確かな模様。
「【用法及び用量】に定められている期間使用した後は、治療の効果の有無にかかわらず、本品の使用を中止し、繰り返し使用しないこと」
なお月刊アクアライフの連載「観賞魚の病気対策」や季刊マリンアクアリストの連載「海水魚の病気を詳しく」では、24時間浴時の濃度をベースに1週間前後の長期薬浴を試みて治療に成功しています。
また、水族館で魚病治療について聞いてみると、最も頻繁に名前が挙がるのがこの製品で、淡水・海水問わず規定量で長期浴を行っていることが多いようです。
したがって体力がある魚では用法外の長期薬浴がうまく転ぶこともあるようです。ただTwitterなどを見ていると、本製品の使用中に魚が死亡してその原因を薬剤の魚毒性とみている声もちらほら見かけるのも事実。少なくとも自分は用法外の使用はしないかな…(薬剤に弱いと言われるドジョウの飼育がメインなので尚更)
他の薬が効かなかった場合の最終兵器とするのか、体力があるうちに強い薬で叩くのか…。この辺りどちらが良いのかは私にもわかりませんが、先の連載や水族館での使用法を見聞きすると、最初からエルバージュの長期浴を選択していることが多い気がします。
「観賞魚用」エルバージュ10%顆粒「薬浴」
販売:ウエノフードテクノ
主要成分
ニフルスチレン酸ナトリウム (フラン系抗菌剤)
遮光:必要
水草:×
内容や用法はエルバージュエースと同じ。
長くエルバージュエースの製造会社でもあった上野製薬が自社ブランドとして販売していたものです。現在ではエルバージュエースの製造会社も変更されており、こちらの製品の販売も終了した模様。
パフラジンF
販売:日本動物薬品
主要成分
ニフルスチレン酸ナトリウム (フラン系抗菌剤)
遮光:必要
水草:×
内容や用法はエルバージュエースと同じで、これといった違いはおそらく内容量のみ。
池にも使用できそうなぐらいの容量ですが、長期薬浴は推奨されていないため別途薬浴槽を設ける必要があります。またフラン剤は光で分解されやすい点にも注意。
アクリフラビン液
販売:リケンベッツファーマ (令和1年まで津路薬品工業)
主要成分
アクリノール (消毒剤)
遮光:不明
水草:不明(おそらく影響なし)
消毒剤のアクリノールを高濃度で配合した魚病薬。喧嘩や採集時のスレなど、傷を負った魚の二次感染防止に有効と思われます。
消毒・静菌効果が主なので、発生した病気の治療には力不足と思われます。
製品の特長としては投入量がかなり多めで溶解時の濃度もかなり濃いことでしょうか。
駆虫薬
ウオジラミ(チョウ)症やイカリムシ症、ダクチロギルス症、ギロダクチルス症といった寄生虫症に効果があるトリクロルホンを主成分とした魚病薬が流通しています。
なお、寄生虫病であっても白点病、キロドネラ病、エピスチリス症、トリコジナ症、ミクソボルス症などには効果がないとされるので注意。
トリクロルホン含有の魚病薬の入手が難化した近年では、レスバーミンという害虫駆除薬をウオジラミ(チョウ)症やイカリムシ症の治療に流用する例もあるようです。
現在流通しているのが、「ムシクリア液」と「レスバーミン」のみなため選択肢は二択。ムシクリアは熱帯魚に使えず、レスバーミンも本来は魚病薬ではないなど両製品に問題点がありチョイスが難しい。ショップの店員さんに聞いてみるのが一番だと思います。
ムシクリア液
販売:キョーリン
主要成分
トリクロルホン (殺虫剤)
塩酸クロルヘキシジン (殺菌剤)
遮光:不明
水草:✕
殺虫剤のトリクロルホンを主成分とした魚病薬。ウオジラミ(チョウ)症やイカリムシ症、ダクチロギルス症、ギロダクチルス症といった寄生虫症に効果があります。塩酸クロルヘキシジンは寄生部の傷からの二次感染を防ぐ役割を担っています。
寄生虫類の生活史と薬効メカニズムの都合から、約2週間以上の間隔をおいて2~3回投薬が必要。
使用上の制約が多く、「メダカ・金魚・川魚・錦鯉以外の生き物」への使用は副作用の影響が大きいため不可。金魚や鯉でも「28℃以上またはpH8.0以上」の場合は使用できません。
製品の特長としては、他のトリクロルホン含有製品と比べるとL当たりの投入量は非常に多く、小型水槽にも使用しやすいこと。またトリクロルホンを含有したものとしては、現在唯一広く流通している魚病薬です。
リフィッシュ
販売:日本動物薬品
主要成分
トリクロルホン (殺虫剤)
塩酸クロルヘキシジン (殺菌剤)
遮光:不明
水草:✕
寄生虫症の魚病薬といえばリフィッシュ、と言えるほど有名な製品でしたがすでに終売。
成分はムシクリアと同一で使用上の注意点もほぼ同じ。L当たりの投入量が極めて少ないので小型水槽への投入は困難と思われます。
トロピカル-N
販売:津路薬品工業
主要成分
トリクロルホン (殺虫剤)
アクリノール (殺菌剤)
遮光:不明
水草:✕
殺虫剤のトリクロルホンを主成分とした魚病薬。
殺菌剤の成分が異なること以外、ムシクリア液やリフィッシュと特段の差はないはず。
近年製販会社の登記が変更されましたが、新会社で販売している様子はなく既に終売していると思われます。未だ在庫がある店舗もありますが、計量の難しさも考えると今から買うならムシクリア液かなと。
マゾテン液-20%
販売:バイエル薬品
主要成分
トリクロルホン (殺虫剤)
遮光:不明
水草:✕
殺虫剤のトリクロルホンを含有した魚病薬。
殺菌剤が含まれないこと以外は、ムシクリア液などと特段の差はないはず。
こちらも近年終売となったようで現在は入手困難。
レスバーミン
販売:日本動物薬品
主要成分:不明
遮光:不明
水草:不明
近年観賞魚用にも用いられるようになった謎の害虫駆除薬。
幼虫段階での脱皮を阻害することでユスリカやチョウバエを駆除することが本来の使用目的。その作用原理を活かして、ウオジラミやイカリムシにも有効であるとの記述がネットを中心にみられます。
有名なアクアリウムショップでも取り扱いがあるので、治療効果があるのは事実と思われますが、いかんせん情報が少ないうえに計量は大変そう。
トリクロルホンを含まないため、熱帯魚などにも使用できる可能性はあるが現時点では情報が少なすぎて判断不能。
参考文献
私が参考にしている資料たちを紹介しておきます。
「アクアブックス① 魚の病気と治療」
著者:畑井喜司雄・小川和夫・柴田俊幸
発行:日本動物薬品(1995)
各種魚病について詳しい解説がなされていてとても参考になる一冊。古さは否めないがそこまで不便なこともなくおすすめ。もちろん絶版なのでメルカリなどで探すしかないのが残念なところ。
「観賞魚飼育・管理士ハンドブックⅠ」
監修:廣崎芳治ほか
資格試験の参考書で内容も詳しく新しい。魚病以外にも飼育管理について詳述されており何かと参考になります。資格を取得する場合は組合から購入できるようですが、メルカリでもまれに出品があります。
「新 観賞魚春秋」
監修:(株)日本動物薬品
発行:ピーシーズ(2007)
内容は先の2冊と大きな違いはありませんが、金魚や鯉の品種や飼育に関する情報がやたら充実していて面白いです。既に絶版ですがアマゾンに流通が多いです。
「BSAVA 観賞魚マニュアル 《第二版》」
著者:William H. Wildgoose
発行:学窓社(2007)
大型の訳書で掲載されている知識量は莫大。日本と薬品名が違うなど不便なところもあるうえ非常に高価ですが、買っておいて損はない一冊。
「月刊 アクアライフ」
発行:エムピージェー
魚病に注目した特集が組まれることもごく稀にありますが、一番参考になるのは何と言っても連載の「観賞魚の病気対策」。基本的には1記事に1つの症例が紹介されており、魚病や治療法の解説の詳しさは傑出しています。可能な限り遡ってコピーしておくのがおすすめです。
「季刊 マリンアクアリスト」
発行:エムピージェー
アクアライフの連載「観賞魚の病気対策」の著者が、連載「海水魚の病気を詳しく」を担当しています。情報が非常に少ない海水魚の魚病の治療を詳述している唯一無二の資料。
最後に
私自身飼育歴は10年ほどしかないのですが、魚病の治療には次の4ステップが大事だと感じています。
①予防・準備:複数種の薬があると安心です
②早期発見:早く見つければ治癒率は劇的に上がります
③正しい判断:病名の診断や薬の選択を間違うと厄介です
④早期治療:迅速な判断と処置が生死を分けます
魚病薬があればどんな状態でも治療できる、というわけではありませんが、正確かつスピーディな選択にこの記事が役立てばいいな、と思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。